認知症学び支える 専門職同席するカフェ、地域住民ら交流

認知症学び支える 川崎に専門職同席するカフェ、患者や地域住民ら交流


認知症の人だけでなく、地域住民も気軽に集い、専門職からアドバイスも受けられる「認知症カフェ」が全国的に広がっている。患者や介護者の交流の場であるとともに、認知症の人を地域で支える体制づくりにつなげる狙いもある。川崎市内でも町内会を主体にした取り組みが始まった。


 8日午後、同市宮前区の土橋会館。「土橋カフェ」の看板が出ると、地元の高齢者ら約60人が集まってきた。一杯100円のコーヒーやお茶を飲みながら、世間話に花を咲かせている。


 70代女性は近年、「1人暮らしなのに、家の2階に誰かいる気がする」などと近隣住民に話すことが増え、心配した友人に誘われて昨年10月にカフェを訪れた。


 同カフェを支援している大倉山記念病院物忘れ外来部長の高橋正彦医師(51)は、女性のこわばった表情にひと目で認知症と気付いた。すぐに受診を勧め、後日、認知症と診断。以降は投薬などで落ち着きを取り戻し、地域の人に支えられながら1人暮らしを続けている。


 同カフェは、土橋町内会(柴原忠男会長)が中心となり、昨年9月から月1回開催している。


 土橋地区の65歳以上の高齢化率は約13%(昨年9月末現在)とまだそれほど高くはない。しかし1966年の東急田園都市線開通とともに開発された地域で、今後は急激に高齢化が進むため、地域で認知症を学び、支え合う場としてカフェを立ち上げた。この日の来場者約60人のうち、認知症の人は1割程度で、大半は元気な地域住民だ。


 同カフェは高橋医師をはじめ、地域包括支援センターのケアマネジャーら、専門職が同席するのも特色だ。講話などで認知症の正しい知識を住民に広めるほか、会話の中から認知症の人たちが抱える困難に気付いて介護サービスにつないだり、認知症の兆候が見られる人に早期受診を促したりと、現実的な支援に結び付ける狙いもある。


 厚生労働省研究班の推計によると、認知症の人は2012年の時点で約462万人、高齢者の約15%に上る。認知症になる可能性がある軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人と推計しており、65歳以上の4人に1人が認知症かその“予備軍”と見込まれている。


 同省は、急速に増える認知症の人を地域で支える体制整備を急いでおり、その一環として本年度からの「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)に、認知症カフェの普及も盛り込んでいる。認知症の人や介護者だけでなく、地域住民や専門職も参加できるなどの要件を満たせば、運営補助金を出しており、初年度は25市町村に各50万~100万円を補助。新年度は大幅増の約470市町村への拡大を見込む。


 同省認知症・虐待防止対策推進室は「カフェを通じて、認知症になっても住み慣れた街で暮らせる地域づくりにつなげたい」と期待を寄せている。



 認知症の人もそうでない人も気軽に集える川崎市宮前区の「認知症カフェ」が今月、オープンから1周年を迎えた。毎月1回、楽しい時間を共有しながら、専門職のアドバイスを受けたり、介護や治療につなげたり-。認知症患者と地域住民らの交流を通じ、病気への理解を深めるとともに互いに支え合う地域づくりを後押ししている。


 「見上げてごらん夜の星を」「ふるさと」…。懐かしいメロディーがフルートの音色で奏でられる。3日、宮前区土橋地区の町内会館。タレント・ベッキーさんの母デミーさんが招かれ、生演奏でカフェの1周年を祝った。


 毎月第1水曜の午後、この会館で3時間ほど開かれる「土橋カフェ」。町内会を中心に、民生委員や地域包括支援センターなどが運営を支える。口コミで広まり、毎回近隣の住民ら60人ほどがコーヒーや紅茶を片手におしゃべりを楽しむ。


 認知症専門医や看護師、保健師といった専門職も同席。ケアマネージャーらが日ごろ関わるなかで気になった高齢者をカフェに誘って医師に診てもらったり、認知症患者の家族が相談に訪れたりする。必要に応じて介護サービスや受診につなげ、認知症をテーマにした講話などのイベントも毎回開いている。


 レストア川崎地域包括支援センターの明石光子センター長は「認知症の人は参加者のうち1割くらい。飲み物を運ぶとか、運営を手伝う患者もいる。認知症の人と接し、地域の人々が病気を理解する場になっている」と話す。


 町内会の老門泰三副会長は「声を掛け合って認知症をサポートしようという雰囲気が出てきた。地域のレベルが上がってきた感じ」と喜ぶ。カフェをはじめ、認知症の正しい知識や患者への対処法について学ぶ講座も定期開催し、特効薬のない病気との向き合い方を多くの人に伝えている。


 厚生労働省の「認知症施策推進5カ年計画」(オレンジプラン)に普及方針が盛り込まれ、取り組みが全国に広がりつつある認知症カフェ。土橋カフェには市内や横浜、都内から視察に訪れる市民や専門職、行政担当者が後を絶たないという。宮前区内の犬蔵地区でも、10月に新たなカフェがオープンする予定だ。